小山英樹のみらい教育LABO 記事アーカイブ
ある新米教師の体験記①
トイレに行って戻ってくると、先輩の生徒指導主任Z先生が職員室前に仁王立ちしていました。
「どうしはりました?」尋ねると、Z先生はこう言いました。
「Iが逃げた。頭髪指導や。小山先生、悪いけどつかまえて来てくれるか。体育館の方やと思う」
今から33年前。大学を出ると同時に私立X高等学校の教員になった、その数日後のことです。
「Iって誰や?で、なんで俺がつかまえなあかんのやろ?」と思いつつ、私は駆け出しました。
体育館の裏に男子生徒がいました。
「Iか?」と声を掛けると、生徒は脱兎のごとく逃げ出します。すぐに追いつき、タックルで倒します。「放せ!放せ!」と暴れるI。腹と顎を蹴り上げられてクラクラしました。
とはいえ、大学の体育会で鍛え上げた肉体のおかげで、普通の男子高校生には負けません。
押さえ込んでほっと一息。
小山「ま、落ち着け、I。逃げてもしゃあないやろ」
I「ぶっ殺す!Zのクソ野郎!ぶっ殺す!」
小山「そんなん言うたらあかん」
I「ぶっ殺す!」
小山「ええ加減にせえ!それ以上言うたらしばくど!」
ブチ切れて怒鳴ってしまいます。でもIには響かない。
I「放せ~!お前も殺す!」
頭をしばきます。平手ですが。
「分かったっちゅうねん。黙れ。観念せえや」
「ぶっ殺す!ぶっ殺す!」・・・うわ言のように繰り返すIの目は完全にイッていました。
Z先生がよっぽど非情な指導をしたんだろうと思いましたが、整髪料使用禁止という校則違反について「なんやその頭は。ちょっと来なさい」と言っただけとのことでした。
それが生徒との初めてのバトルでした。
それまで出会ったことの無い人間がいる、これまでの常識では対応しきれないかも・・・不安いっぱいの高校教員生活のスタートでした。
わずか6年間でしたが、私にとって高校教員であった6年間は、実に濃厚な時間でした。
当時のことは、最初の本「子どもを伸ばす5つの法則」や新聞連載等にも書いてきましたが、まだまだたくさんの出来事があります。これまで書いたことの無い話、あまり人に話してこなかったエピソードを紹介していこうと思います。題して「ある新米教師の体験記」です。