一般社団法人 日本教育メソッド研究機構 JEMRO

小山英樹のみらい教育LABO

1.アクティブラーニングを取り巻く諸事情

(1)学校教育に対する変革要請

近年、日本において学校教育に対する変革要請が高まっている。この要請は、人口減少・高齢化の進展、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)などといったICTの加速度的な発展による超スマート社会の到来、グローバル化の進展と世界のGDPにおける日本の割合の低下傾向、子どもの貧困や地域間格差などからきていることを、文部科学省中央教育審議会による答申「第3期教育振興基本計画」(2018.6.15閣議決定) から読み取ることができる。
このような外部要因からくるトップダウンの改革要請の内容を一言でいうと、学校における学びを、「主体的・対話的で深い学び」である、いわゆるアクティブラーニングに移行すること、および、その移行を学校全体の教育活動の中にどのように位置づけるかというカリキュラム・マネジメントであると言える。

外部要因からくるトップダウンの改革要請
学校における学びをアクティブラーニングに移行 移行を学校全体の教育活動の中にどのように位置づけるかというカリキュラム・マネジメント

(2)アクティブラーニングに対する印象

「主体的・対話的で深い学び」、いわゆるアクティブラーニングに対して、現場の教員の受けとめは様々であると思われるが、たとえば、木村充、山辺恵理子、中原淳(2015)の調査報告 によれば、全国の高等学校において、アクティブ・ラーニングという言葉のイメージに対して、学校代表者の68.0%が生徒の力の向上に効果的な学習であり、52.1%が積極的に取り組むべき学習であると回答しており、各教科主任においても、54.9%、36.4%が同様に回答している。この報告書は、教員が【全般的に、「アクティブ・ラーニング」という言葉にはポジティブなイメージを持って】いると結論付けている。また、HATOプロジェクト(2016)の調査報告 によれば、全国の公立小中高校教員のアクティブ・ラーニングの推進は、その賛成の割合が8割を超えているとのことである。このように、現場の教員は概ねこの改革を好意的に受け止め推進しようとしていることが見て取れる。ただ、その推進状況は学校や教員個人によって質的・量的に違いがあり、そこには大きく分けて2つの問題が存在していると考えられる。

(3)アクティブラーニングへの移行における問題点1

1つ目がアクティブラーニングを目指した授業実践では、授業の型や方法論のみに焦点があたりがちであることである。ただ、溝上(2014) によれば、【アクティブラーニングは、基本的に学習の形態を問うものであって、学習内容の理解を問うものではない】とされており、そもそもアクティブラーニングという概念が示すものは型であるともいえる。これについては文部科学省でも問題視していると思われ、学習指導要領に関する中央教育審議会答申 において、【形式的に対話型を取り入れた授業や特定の指導の型を目指した技術の改善にとどまるものではなく、子供たちそれぞれの興味や関心を基に、一人一人の個性に応じた多様で質の高い学びを引き出すことを意図するもの】、【学習活動を子供の自主性のみに委ね、学習成果につながらない「活動あって学びなし」と批判される授業に陥ったり、特定の教育方法にこだわるあまり、指導の型をなぞるだけで意味のある学びにつながらない授業になってしまったりという恐れ】などとして、アクティブラーニングという言葉が型の追及を指しているのではないと警鐘を鳴らしている。

(4)アクティブラーニングへの移行における問題点2

また、2つ目の問題点としては、生徒に深い学びを実現している教員の実践が、教員個人の経験や勘による職人芸にとどまっており、他の教員に共有されにくいことである。ある県立高校校長によれば、「自身で研究、試行錯誤をしながら授業改善を行っている教員は複数いるが、それらをお互いに共有し合っていない。そのため、せっかくの授業改善が個々の教員の実践にとどまっている」とのことである。また、授業は一回性のものであり、それを実践している教員によっても、その実践知を言語化することが難しい。このため、実践を続けながら、他者に伝えたり共有化したりすることが困難であるという側面がある。

アクティブラーニングへの移行における問題点
アクティブラーニングを目指した授業実践では、授業の型や方法論のみに焦点があたりがち 生徒に深い学びを実現している教員の実践が、教員個人の経験や勘による職人芸にとどまっており、他の教員に共有されにくい

(5)日本青少年育成協会の対応

これらの課題を解決するため、日本青少年育成協会では2015年からアクティブラーニング実践講座を開講している。アクティブラーニング実践講座では、現在も教壇に立つ先進的実践者がその講師を務めているが、単なる型や実践事例を伝えるだけではなく、そこに至るまでの経過や教員としてのあり方、コミュニケーション技法に大きくスポットを当て、学びのための学びではなく実践のための学びを実現してきている。また、2016年にはこれまでの研究成果をまとめた書籍「この一冊でわかる!アクティブラーニング」を上梓するとともに、文部科学省の「平成28年度総合的な教師力向上のための調査研究事業」の委託も受け、より多くの教員の実践に資するための研修プログラムの開発を行ってきた。事業委託終了後も独自に調査・研究を継続し、常にプログラムの深化・発展に努めてきている。
こうした活動をより強力に推進するため、2019年度からは協会内に「アクティブラーニング推進委員会」を設立。JEMRO日本教育メソッド研究機構との協力体制により、よりダイナミックな展開を行っている。

木村充, 山辺恵理子, 中原淳 (2015). 東京大学-日本教育研究イノベーションセンター共同調査研究『高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型授業に関する実態調査 2015: 第一次報告書.』
北海道教育大学(H)愛知教育大学(A)東京学芸大学(T)大阪教育大学(O)の4大学が中心となって教員養成の高度化支援システムを構築するプロジェクトであるHATOプロジェクト『教員の仕事と意識に関する調査』
溝上慎一(2014)『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』東信堂pp.104
小山英樹、峯下隆志、鈴木建生(2016)『この一冊でわかる! アクティブラーニング』PHP研究所
平成28年12月21日『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』(中教審第197号)pp.26、pp.48

2.私たちが推進するアクティブラーニングの概要

(1)魅力的な授業を実践している教員の共通項

日本青少年育成協会・JEMRO日本教育メソッド研究機構の研究員が全国の学校で授業を観察していく中で、極稀にではあるが「魅力的な授業」を実践している教員に出会うことがある。これら「魅力的な授業」において教員及び児童・生徒を観察していると、ある共通項が浮かんでくる。
児童・生徒に共通していることは、身体や顔が文字通りに前のめりである、集中して個人で考えている時間がある、作業に没頭している時間があるなどである。これらは、教育者であればだれもが納得のいく事項であると思われるが、では、どのようにすれば授業の中でこのような児童・生徒の姿が生まれるのか。「魅力的な授業」を実践している教員の共通項は次表の4点である。

「魅力的な授業」を実践している教員の共通項
授業準備 (1)生徒の反応や学びの過程についての想定を行いながら,扱う内容や授業の流れ,発問事項や学びの内容など,授業の準備を入念に行っている。
授業中 (2)準備をしてきた内容や流れに沿って授業を行いながら,その時間の生徒の表情や反応,学習状況をよく観察している。
(3)準備をしてきた内容や流れに沿ってはいるが,生徒の反応や学習の進み具合に合わせて,臨機応変に授業進行や内容を修正しながら授業を行っている。
授業後 (4)その時間の学びを振り返りながら,次の授業の準備を行っている。

(2)「生徒の深い学び」を実現する教員のあり方

前述したように、アクティブラーニングにおいては、型や方法論に焦点が当たりがちであるとしたが、「魅力的な授業」を実践している教員の共通項に型や方法論は出てこない。実際に多くの授業を観察してきて、表面的な技法としては多種多様であり,「魅力的な授業」を行う上で決定的な技法というものは存在していないように見える。
そこで、上の共通項について「生徒の深い学び(アクティブラーニング)」を実現する教員のあり方という視点からまとめてみると、次表のように三つの要素に分けられる。

「生徒の深い学び」を実現する教員のあり方の三要素
(1)意図 授業者は,何のためにその内容を扱うのか,なぜこの教材を活用するのかなど,意図を明確にして授業準備を行い,授業に臨んでいる。
(2)観取 授業者は,生徒一人一人の学びの状況,ペア・グループ・クラス全体の学びに向かう姿勢など,授業中には木も森も観察をしている。
(3)省察 授業者は,授業を行いながらも,生徒の反応や学びの状況などから,常に授業進度や課題提示のタイミング,解説の必要の有無などを即興的に判断するとともに,自身の行った提示や解説が,生徒の学びを促進しているか否かを常に振り返っている。また,授業終了後には,授業中に行った振り返りを活用しつつ,授業改善や教材研究を行っている。
生徒の深い学び

日本青少年育成協会・日本教育メソッド研究機構が推進するALは、上で示したような教員の専門性を身につけることで、教員としてのあり方をより強固にしていくことを目的にプログラムを開発している。もちろん、これらの専門性を身につけるうえで、技法や方法論が無用であるはずはない。技法や方法論にも精通することで、それらに縛られたり振り回されたりすることなく、「生徒の深い学び」を実現していくことが可能となる。